不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
レズビアンやゲイ、バイセクシャルといった性的嗜好を持つ人や、心とからだの性自認が一致しないトランスジェンダーの人たちを性的少数者=「LGBT」と呼びます。様々な派生語も生まれており、既存の性カテゴリに当てはまらないクィア(Queer)が加えられた「LGBTQ」といったものが代表的です。
このようなLGBTの人たちは、住宅において様々な問題を抱えています。
具体的にどのような問題があり、不動産事業者はどのようなことが求められているのかについて考えてみましょう。
最近では、国内外でLGBTをめぐる様々な報道や意見交換、活動が行われているので、LGBTという言葉に全く聞きなじみがないという人は少ないかもしれません。
2021年、国際的な世論調査「世界価値観調査」が行われ、その結果が発表されました。その調査結果を引用します。
参考記事:「LGBT寛容度は米欧並み 日本、法整備に遅れ」日本経済新聞
同調査によると、日本で同性愛を「認められる」と答えたのは55.3%、「認められない」は36%でした。同性愛についての質問が75の国と地域で実施され、55.3%の日本は75位中18位でした。これは、20位のアメリカ(53.6%)よりも高く、世論・世間では徐々に同性愛やセクシャルマイノリティが認識され始めているように感じます。
2019年にLGBT総合研究所が発表した調査では、日本全国20歳から69歳のうち10%が性的少数者であるという報告もあります。
LGBTへの認識が高まる一方、日本ではまだまだ法整備が進んでおらず、G7のなかでは唯一日本のみが同性婚や性的少数者の差別禁止法が施行されていません。また、2023年2月には、首相による同性婚に対する無理解な発言や秘書官(元)による差別発言などがメディアでも取り沙汰され、前述の調査結果をうのみに信じることや、本当に日本がLGBTに理解ある社会に変化しているのかに疑問すら感じます。
住宅や住まいにおいてもLGBT当事者には課題がたくさんあります。
たとえば、賃貸借契約を結ぶ際、同居人がいる場合は契約書に明記することが一般的です。結婚や婚約相手であればすんなりと済むケースであっても、同性カップルの場合は認められないケースもしばしばあります。
また、住宅を購入する際にもペアローンを組む際の問題や、将来的な相続の際に遺産相続の対象とならない可能性があるなど、LGBT当事者をめぐる住宅の課題は山積しています。
2022年11月、東京都は「東京都パートナーシップ宣誓制度」を開始しました。これはパートナー関係にあるLGBT当事者の2人が宣誓・届出を行い、都が受理することで、日常生活における様々な場面での手続きを円滑に行うほか、連携する行政や民間事業者の様々なサービスを受けることができるというものです。
東京都のケースでは、都営住宅や都施行型都民住宅への入居やサービス付き高齢者向け住宅登録事務の円滑化、災害支援金や里親認定登録申請の円滑化などの都事業での活用に加え、生命保険や住宅ローン、クレジットカードなどにも証明書が利用ができるようになりました。
現在、このようなパートナーシップ制度の導入が全国の自治体で進んでいます。2023年4月時点では、導入自治体数は272、人口普及率は68.1%となっており、各自治体が主導となってLGBTにとっても住みやすい街や環境の整備が進められています。
このような動きに呼応するように、不動産業界でも徐々に変化が現れています。大手不動産ポータルサイト「スーモ」では、2017年から賃貸物件情報に「LGBT」の項目を追加、「ホームズ」もLGBTの項目追加に加えて、2021年には不動産事業者に向けた「LGBTQ接客チェックリスト」の提供を開始し、不動産業界のプレイヤーに対してのLGBTへの深い理解や知識を啓蒙する活動に取り組んでいます。
具体的に、不動産事業者はLGBT当事者との関わりや接客においてどのような点に配慮が必要なのでしょうか。
不動産業界に限らず、LGBT当事者が日々さらされるものに、知識不足による悪意のない差別発言や態度があります。
たとえば、顧客が自身の性自認をカミングアウトしたことで、急に態度が変わったりテレビのバラエティ番組などで得た知識によって「オネエ」といった言葉が出たりするといったケースは頻繁に聞く差別事例です。
2023年2月に公開されたスーモジャーナルの記事「ゲイは入居不可」という偏見。深刻な居住問題と“LGBTQフレンドリー”に取り組む不動産会社、そして当事者のホンネでは、LGBTの部屋探しや住居問題について、LGBTQの人たちの居住支援を行うNPO法人カラフルチェンジラボへ取材を行っています。
同記事によると、LGBT当事者に対してどのような接客が嬉しいかというアンケートでは、「LGBTフレンドリーとうたっているが接客は至って自然体で行ってほしい」「フレンドリーであってもセクシュアリティの確認はしないでほしい」「レインボーフラッグやステッカー見えたら入店しやすい」といったものが上位を占めました。
LGBTやセクシャルマイノリティを正しく理解することで、担当者個人が持つ偏見を捨て、軽率な発言や差別的な態度を控えることを心がけなければなりません。
思うように住宅を借りられない、住まいを確保できない、いわゆる「住宅弱者」と呼ばれる人たちは、LGBTに限った話ではありません。外国人国籍の人や高齢者なども、住まいにおける十分な選択肢がなく、混迷を極めているケースが少なくありません。
社会的に弱い人たちに寄り添い、すべての人々が安心できる暮らしや住まいを提供することが不動産事業者として本当に求められる姿なのではないでしょうか。