不動産管理会社だからこそできる相続支援業務 [前編] なぜ今、相続支援が必要なのか

不動産コラム

将来的な世帯数の減少や大手や新規事業者の参入など、昨今、不動産管理会社にとって経営環境は一層厳しいものとなっています。座して待つのではなく、今後、管理会社はどのような方向に進化していくべきなのか。今回は、その一つの可能性を示唆するセミナーの様子をご紹介します。
神奈川県大和市で賃貸管理を中心に地元に密着したサービスを展開する不動産会社、小菅不動産の代表取締役、小菅貴春氏が「賃貸管理会社だからこそできる相続支援業務」と題し、高い意識を持つ管理会社の皆さんに向けてお話をしました。その様子を3回にわたってお伝えします。第1回目は、なぜ今、相続支援が必要なのか―その背景を探ります。

世帯減少社会到来。バブル期に建築された大量の住宅ストックをどうするか

まずは不動産管理会社をめぐる事業環境のおさらいから始めましょう。図表は、国立社会保障・人口問題研究所が公表した人口と世帯の将来推計を基に、当編集部が首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の一都三県)の人口や世帯の動向についてまとめたもの。
これによると、総人口は2015年をピークに減少へ向かうものの、65歳以上の高齢者については一貫して増加していきます。2010年の人口数を100とした指数でみると、ほぼ10年後の2025年に130で、2040年には153と現在の1.5倍にもなるのです。

首都圏の総人口の推移、高齢人口の推移のグラフ

また、不動産管理会社として気になるのは、人口よりも世帯数でしょう。世帯数は人口よりやや遅れ2025年をピークに緩やかな減少に向かいます。中でも特筆すべきは高齢の単独世帯です。今から約20年後の2035年を2010年と比較すると、その増加率は71%にも上ります。中でも神奈川、埼玉の増加率が高く8割を超えています。
賃貸管理の現場でも、高齢の単独のお客様が増えている実感があるのではないでしょうか。小菅不動産でも、高齢のお客様が増えているといいます。「中には貸すのが難しいような方もいますが、明らかに増えるこの層を今後、いかに取り込むかが入居率を高く保つために重要になってきます。特にこれから、ご主人に先立たれた高齢の女性の一人暮らしが増えてくることは既に実感値として感じていますので、管理会社として対策が必要になるでしょう」(小菅氏)。

首都圏の世帯数の推移、高齢世帯数の推移のグラフ

高齢化の進行状況はエリアによってやや事情が異なり、例えば小菅不動産の地元である神奈川県では、横須賀や三浦といった横三地区や小田原を代表とする県西部は既に総人口は減少に入り、高齢化も進んでいる一方で、横浜や川崎などは、現時点では人口流入が進み、比較的若年層が多いというデータが出ています。ただしこういったエリアは、今後急速に高齢化が進むことが予想され、地方で取り組んでいる高齢化への対策が、今後、都市部でも重要になってくると小菅氏は言います。
他方、賃貸住宅のストックはどうなっているでしょうか。首都圏の賃貸住宅の着工戸数は直近の2年間は連続で増加し、今年は恐らく、消費税増税前の駆け込み需要の反動で減少しているでしょう。小菅氏は「今年は反動で特殊だとしても、現場の感覚としては、全国展開する大手の賃貸住宅メーカーの物件などが、場所を問わずにどんどん建っているイメージがあります」と言います。
時系列でみると、いわゆるバブル期だった昭和60年から平成2~3年頃に建築された物件が非常に多く、築20年から25年にあたるこれらの物件が厚い層をなしています。現在、空き家が増加しているという問題がしばしば取沙汰されますが、空き家の統計調査でも、やはり平成元年前後の物件が多くなっています。小菅不動産の管理物件もまさにその通りで、新築がどんどん建っているなかで急速に競争力を失っているこれらの物件をどう再生するか、また、新築案件をメーカー任せにせずに、いかに土地有効活用のコンサルティングから入っていくかが会社を経営していく上でも大きな課題となっているとのことです。

首都圏の貸家着工戸数の推移のグラフ
空き家となっている賃貸住宅の建築時期

地元マーケットに大手も進出。競走が激化する管理業界

世帯減少に伴う賃貸住宅マーケット全体の縮小が危惧する中で、管理会社は増加しています。管理会社といえば地元密着型の会社が多い中、今や全国に展開するような大手の会社が地域の物件の管理にも進出しつつあります。
また、現在進みつつある国の施策として注目されるのが、民法改正と契約のIT化推進です。民法改正は原状回復と連帯保証に関する事項で、法律に則した契約書の厳守やオーナーへの告知徹底が必要となります。
契約のIT化推進は、対面を義務付けていた重要事項説明を、オンラインでも可能にするなどインターネットの活用を進めようというもの。IT事業者の不動産業への参入が現実的になるかもしれません。

国の取り組み

管理会社にとって、事業環境は極めて厳しさを増していると言えるでしょう。「当社は46年の社歴がありますが、もはやそれは意味を持ちません。オーナーも世代交代し、知識も豊富な入居者が増える中で、管理会社としてただ管理をしていればいいという状況ではありません。コンサルタントの色合いを濃くしなければ生き残りは厳しいでしょう。業界でよく言われるのが、東京五輪が終わると集中と淘汰が本格化するということ。それまでにしっかりと地元のシェアを固める必要があります」と、小菅氏は警鐘を鳴らします。
そして管理会社がコンサルティング会社の色合いを強めるにあたって、重要な要素の1つが今回のテーマである「相続支援」なのです。

ビジネスチャンスが逃げていく!相続支援をやらなかったために…

ちなみに小菅不動産でもこれまで、相続支援コンサルティングに注力していなかったために、数々のビジネスチャンスを逃し、苦い思いをしたといいます。セミナーでは、そんな失敗例も紹介されました。

・オーナー死亡後、今まで接点のなかった長男が相続し、管理会社変更になった
・オーナーが遺言信託をしており、納税資金準備の物件売却を、信託銀行系の不動産会社が行うことになった

などです。また、下記のようなことも想定されます。

・生前の相続税対策が、管理会社と関係のない税理士によって行われたことで、次のような事例が発
→生前中にも関わらず、その税理士が紹介した管理会社に管理変更となった
→その税理士の紹介した建築会社によって新築提案がなされ、管理も変更となった
→その税理士の紹介した不動産会社にて物件売却となった
→その税理士の紹介した不動産会社にて、新たな物件購入をしていた

いずれも、日頃から相続についての情報を発信し、相談にものり、お互いに情報交換をするということができていなかったがために、本来なら対象物件について最もよく知っているはずの自分たちが関わることができなかったケースです。管理費用や仲介費用など、取りこぼしてしまった利益の大きさもさることながら、自分たちの取組みのまずさが招いた結果とあって、その残念な思いはひとしおだったと言います。
これらの事例は、多くの管理会社にとって決して他人事ではないはずです。オーナーとの関係を次世代につなげ、管理している物件の価値を最大限に引き出し、さらには良質なストックを増やすためにも、相続支援という切り口が今、非常に重要となっているのです。


小菅 貴春

小菅 貴春
日管協公認 上級相続支援コンサルタント
1975年生まれ。1997年、神奈川大学経済学部経済学科卒業後、ディスプレイ制作の株式会社ムラヤマに入社。2003年、家業である小菅不動産へ。代 表取締役就任。同社は1968年創業。神奈川県大和市を中心に不動産の売買・仲介・管理などを手がける。米国不動産経営管理士、日管協公認上級相続支援コ ンサルタントなどの資格も保持

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