不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
未だ終息の気配が感じられない新型コロナウイルスは、日本経済やあらゆる産業に大きな影響を与えています。それは、不動産業界も例外ではありません。新型コロナウイルスは賃貸業界にどのような影響を与えているのか。各社が発表している調査結果やデータをもとに現状を捉えつつ、どのような変化が求められているのかを考えてみましょう。
著者:不動産IT技術研究会
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言は、2020年4月7日~5月7日まで発令されました。全宅連が2020年4月に発表した「不動産価格と不動産取引に関する調査報告書 第17回 不動産市況DI調査」では、緊急事態宣言発令前後の賃貸業界について、推薦された各都道府県のモニター企業を対象に、アンケートを行っています。
https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/DI-202004.pdf
「(2020年)1~3月の居住用の賃貸仲介件数における新型コロナウイルスの影響について」という質問では、36.4%が「影響があり、昨年対比で減少した」と回答しています。その一方で、「昨年並みである」という回答も38.0%ありました。
首都圏や都市部といった人口の移動が多い地域では、就学や就職といった必要に迫られた引っ越しも多いため、影響が出ていないという回答も多かったようです。ただし、飲食業テナントの退去や事業用テナントからの賃料の減額交渉といった事案はこの頃から、散見されていました。
緊急事態宣言が解除された後はどうでしょうか。不動産コンサルティングを行うクラスココンサルファーム(以下、クラスコ 石川県金沢市)は、2020年6月に新型コロナウイルスによる賃貸仲介業への影響を調査するアンケートを全国の不動産事業者に行いました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000542.000006823.html
「コロナショックでの賃貸仲介・影響はありましたか?」という設問では、「大きな影響があった」20.6%、「影響があった」61.9%と、82.5%の企業が新型コロナウイルスによる影響があったと回答しています。集客減した企業が79%、売上減は74.6%という結果も発表しています。
前出した全宅連の調査が4月、クラスコのアンケートが6月と、わずか2ヵ月で大きく状況が変わっているようです。自粛生活や不要不急の外出を控える生活の長期化は、部屋探しや引っ越しといった住まいに関わる消費にもブレーキをかけているようです。
では、賃貸業界で働く人々に変化は起きているのでしょうか。
リーシング・マネジメント・コンサルティングが2020年7月に発表した「新型コロナによる賃貸不動産仲介会社への影響度」調査を見てみましょう。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000005414.html
首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)所在の賃貸不動産仲介店舗211社に行った同調査によると、在宅勤務をしていない企業は85.3%という結果でした。在宅勤務を行っているのは14.7%、そのなかで毎日在宅勤務を行っているのはわずか0.5%でした。
個人情報の取り扱いや現場での業務が多い賃貸業界では、在宅勤務の導入は難しいようです。同調査では、不動産事業者による新型コロナウイルスに向けた取り組みも紹介しています。例えば、IT重説を利用するためのツールの普及です。実に71.6%の企業が「Zoom」や「LINE」といった映像通話ツールを導入していることが分かりました。映像通話ツールは、遠隔での内覧などにも活用されているようです。
今回取り上げた調査を振り返ると、緊急事態宣言前後の賃貸業界は、新型コロナウイルスの流行は一次的なものであり、短期間で終息したのちもとの経済活動が復活すると考えていたケースが多かったようです。
しかし、季節が夏になっても一向に収まる気配がなく、賃貸業界だけではなく日本経済全体に大きな影響が現れているなかでは、新しい接客方法やIT活用を模索しなければならないと危機感を持ち始めた不動産事業者も増えています。
ここで注目されるのは、映像通話ツールによる非対面での接客やIT重説、VRサービスを使った遠隔での内見案内、スマートロックを活用した無人内見といったものまで多岐に渡ります。
ITリテラシーが低く、テクノロジーの活用が全産業のなかでも後発だといわれている不動産業界。しかし新型コロナウイルスはそんな業界を待ってはくれません。いち早い技術活用や変化が求められているのです。