不動産管理会社だからこそできる相続支援業務 [後編] 相続支援業務を手がけるために今すぐにすべきこと

不動産コラム

将来的な世帯数の減少や大手や新規事業者の参入など、昨今、不動産管理会社にとって経営環境は一層厳しいものとなっています。座して待つのではなく、今後、管理会社はどのような方向に進化していくべきなのか。今回は、その一つの可能性を示唆するセミナーの様子をご紹介します。
神奈川県大和市で賃貸管理を中心に地元に密着したサービスを展開する不動産会社、小菅不動産の代表取締役、小菅貴春氏が「賃貸管理会社だからこそできる相続支援業務」と題し、高い意識を持つ管理会社の皆さんに向けてお話をしました。その様子を3回にわたってお伝えします。第3回目は、相続支援業務を手がけるために今すぐにすべきことを探ります。

相続税大増税時代到来。相続支援業務もライバル多数

平成27年1月1日施行の相続税法の大改正では、相続財産から差し引ける非課税部分(控除額)が大幅に減額されます。一般的な家族構成であれば、従来ならば概ね財産額8000~9000万円が課税されるラインでしたが、改正後はそれが約5000万円にまで引き下がります。新聞やテレビなどのメディアでも盛んに相続税大増税時代と叫ばれ、今まで以上に相続のことを真剣に考えるオーナーが増えているに違いありません。

課税される財産の評価額をいかに圧縮するかが大きな関心事となる中、大手ハウスメーカーやメガバンク、信託銀行などもこれを商機ととらえて活発に動いています。地元密着で事業を営み、地域のニーズを丁寧に組み上げてきた不動産管理会社や仲介会社にとっても、これらの大手資本とバッティグするシーンが増えたのではないでしょうか。
「相続支援業務では、当然、銀行などとパイの奪い合いが出てきます。彼らと喧嘩をするわけではありませんが、『相続のことも当社にお任せください』とオーナーさんにしっかりアピールしておかないと、その後のビジネスチャンスの喪失につながります」と、小菅氏は警鐘を鳴らします。

実際、オーナーに建て替えのプランを提案していたら、それを聞きつけた銀行が別のブランを持ってきたというケースもあったといいます。
「そのオーナーさんは当社を信頼してくれていたので、『銀行からこういう提案があったから、小菅さんのところの提案と一緒に検討してみてくれる?』と、資料を出してくれました。幸い当社の提案は、地元のアドバンテージで、そのオーナーさんのニーズに合いそうなハウスメーカーを選んでいくつか出したものだったのに対して、銀行はそこまで考えずに出したものだったので、間取りも利回りもあまりよくありませんでした。なので、最終的には当社の提案で作ることができました」(小菅氏)。

言ってみればオーナーとの信頼関係と、オーナーの利益を真摯に考える姿勢で覆したケースでした。日頃からどれだけそのような話ができていて、オーナーから相談に足る相手だと思われているかが鍵となる象徴的な事例と言えるでしょう。

今すぐに取り組むオーナー対策

セミナーでは、オーナーとのリレーション構築のために小菅不動産が実施していることも紹介されました。相続支援業務に乗り出すにあたって、すぐに取り組める対策として大いに参考になりそうです。

相続セミナーの開催

小菅不動産では、これまでもオーナー対象のセミナーを開催してきましたが、新たに全6回コースの相続をテーマにしたセミナーを企画・開催。既に第一期を終え、現在、第二期の開催を控えているところです。第一期は15人程度の参加を見込んでいたところ、予想以上に好評で27人が参加。オーナーの関心の高さを実感したといいます。

セミナー開催のポイントは、以下の3つ。
・必ず社員が講師を務め、税理士は同席するにとどめる
・1回のみの単発セミナーではなく、複数回のシリーズで開催する
・修了証を発行して管理会社へのロイヤリティーを高めてもらう

税理士に講師を任せると、どうしても管理会社の影が薄くなってしまいます。社員自らが講師を務め、バックには有能な税理士がいることをアピールするほうが得策です。セミナーでの講師経験を通じて、会社内に知識が蓄積されることも大きなメリットに。シリーズ開催と修了証の発行は、オーナーとの関係をより深めるための工夫です。

通夜・告別式の訪問

オーナーご逝去の際は必ず訪問するほか、特に関係の深い「ロイヤルカスタマー」に相当するオーナーの際は、手伝いの人員を出すことも打診。とりわけ古い土地柄のエリアでは、本家やその土地の名士といった事情で、人手を必要とすることも少なくありません。申し出ると、「では2、3人お願いします」となって、それがその後の信頼関係につながることも。「葬儀や通夜の場で家族とお話ができて、今後の相談を受けることもあります」と小菅氏。哀悼の気持ちが第一であるのはもちろんですが、今後につながる貴重な場でもあるのです。

初七日過ぎを目安に落ち着いた頃合いを見計らい、必要な手続きやスケジュールなど相続関係についてまとめた資料を持って、再度訪問をすることも重要です。収入計算書など手続きに必要な資料があればすぐに出す旨を申し出ると、それが糸口になって相談を持ちかけられることもあるでしょう。スケジュールなどすぐに調べられそうな内容でも、ツールとして持っていることで話のきっかけになるので、準備することをお勧めします。

オーナー新聞、オーナー訪問

オーナー新聞を定期的に発行し、相続のコラムを載せたり、店長クラスに毎月のオーナー訪問を義務付けたりと、小菅不動産では日常的なコミュニケーションと啓蒙活動で、相続を印象づける取り組みもしています。これは、特に店長クラスに相続の基礎知識が蓄積するという大きなメリットも見込めます。日常的にオーナーと接点のある店長に知識があれば、オーナーから情報を得るきっかけとなるほか、本格的に相続対策を検討する際のファーストコンタクト先として機能することも期待できるからです。

いよいよ相続支援業務スタート!資格取得がメリット大

いよいよ相続支援業務の看板を掲げようというとき、社員が業務に必要な知識とスキルを体系的に身に着けるために有効なのが、資格取得です。
今回のセミナーでは、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が主催する資格、「相続支援コンサルタント」が紹介されました。資格の要件と認定方法は以下の通りです。

相続支援コンサルタント

相続に関する基本的な知識を持って、賃貸住宅オーナー等からの相談に応じるとともに、相談内容を的確に理解し、一般的・基本的なことについて助言できることが期待される。
(8回の講習と筆記形式の修了試験合格を経て認定)

上級相続支援コンサルタント

相続に関する専門性の高い知識と技能を持って、様々なケースに応じて具体的にコンサルティングできることが期待される。登録者は、相続をテーマとした講習会やセミナー等で、講師を務めることが期待される。
(7回の講習とプレゼンテーション形式の修了試験を経て認定)
この資格で特徴的なのは、話す訓練に力を入れていること。上級まで修了すれば、セミナーで講師を務められるレベルに達すると、小菅氏は言います。
この資格以外にもいくつか民間の資格があり、各々の主催団体の特色などによって学ぶ内容も異なります。不動産という切り口では、やはり日本賃貸住宅管理協会の上記資格の内容が充実していますが、いずれにしても広くアンテナをはって、情報収集することは決して無駄にはならないでしょう。

最後に、相続支援業務を手がけるにあたって重要なことは、会社ぐるみで取り組むことと専門部署を設置すること。地域密着型の会社であればあるほど、社員一人ひとりが様々なシーンでオーナーとの接点があるでしょう。みんなが同じ意識を持つことにより、情報を専門部署へ繋げることができます。そして、専門部署で高い相続支援コンサルティングを行うことが可能となります。小菅不動産でも、数々の失敗経験から、組織として取り組むことの重要性を認識したそうです。

なお、相続支援のサービス内容や料金をあらかじめ決めておくこともポイントの一つです。地域密着型の会社では、昔ながらのつきあいだけに、ともすると「なあなあ」でサービスを提供しがちです。しかしそこはけじめをつけることで、管理会社側にプロとしての自覚が生まれると同時に、オーナー側もビジネスとして頼みやすくなるかもしれません。サービスを通じてオーナーの感謝と信頼を獲得するともに、お金もしっかりもらうことで、事業として確立していくことです。

今、管理会社は、賃貸管理と仲介を手がける存在から、コンサルティング会社へとステップアップできる岐路に立っています。相続に関わる知識を習得することは、社員の知識欲が満たされ、社内が活気づくことにもつながるでしょう。相続支援業務を一つのきっかけに、管理会社が大きく飛躍する可能性を示唆して、盛会のうちに今回のセミナーは終了しました。これをお読みの皆さんの会社でも、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。


小菅 貴春

小菅 貴春
日管協公認 上級相続支援コンサルタント
1975年生まれ。1997年、神奈川大学経済学部経済学科卒業後、ディスプレイ制作の株式会社ムラヤマに入社。2003年、家業である小菅不動産へ。代 表取締役就任。同社は1968年創業。神奈川県大和市を中心に不動産の売買・仲介・管理などを手がける。米国不動産経営管理士、日管協公認上級相続支援コ ンサルタントなどの資格も保持

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