不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
コロナ収束が見えてきたことで、海外からの留学やビジネス目的で日本に住む外国人が増加し、再び外国人の住まい需要が高まっています。
しかし、外国人に対する偏見や間違ったイメージを持つオーナーや不動産関係者は多く、外国人が入居可能な住宅は不足しています。
今回は、在留外国人の住まいに関する問題に注目し、現状の課題や不動産事業者に求められることについて考えてみます。
日本に住む外国人、いわゆる在留外国人は10年で100万人以上増加しています。
出入国在留管理庁が公開している「令和4年末現在における在留外国人数について」によると、令和4年(2022年)末時点の中長期の在留外国人は307万5,213人と過去最高で、初めて300万人を超えました。
下記グラフは、各年末時点の在留外国人の推移を集計したものです。
2013年時点で206万6,445人だった在留外国人は年々増加し、コロナ禍の20年・21年は一時的に減少しましたが、現在ではまた増加傾向にあります。
国別に見てみると、最も多い在留外国人の国籍は中国の76万1,563人で、前年比でも4万4,957人増加しています。ベトナム国籍も48万9,312人と多く、前年比で5万6,378人増加しており、増加人数で見れば中国よりも増えていることがわかります。
また、在留資格に関しては、永住資格を持つ永住者(86万3,936人)が一番多く、次いで技能実習(32万4,940人)と続きます。前年比で最も増加したのは留学者(30万638人)で、前年比で9万2,808人増加しており、コロナ収束に伴って留学を目的に訪日する外国人が再び増加し始めていることがわかります。
日本で増加する在留外国人ですが、住まいに関する課題や問題は山積みです。
少し前の調査になりますが、2019年に在留外国人に向けたメディアを運営するYOLO JAPANが、在留外国人が部屋や家を借りる際の現状についての意見調査を実施しました。
部屋探しをしたことのある487人に、外国人という理由で断られたことがあるかを聞いたところ、41%が外国人というだけで入居拒否された経験があると回答しています。
「外国人はマナーが悪い」「部屋で騒ぐ」といった勝手な偏見やイメージによって、問答無用で入居を拒否する管理会社やオーナーは、いまだに一定数存在します。「ごみ出しのルールを守らない」といったこれらのトラブルは、入居の際にきちんと説明し、理解を促さなかった貸し手側の責任も多分にあります。
また、日本のように借地借家法といった法律で、借主が保護されている国は少ないのが現実です。つまり、オーナー・管理会社が定めたルールに沿わなければ強制的に家を追い出されるという母国の慣習がある場合は、ルールや家賃の支払い期限などを厳守するケースが多いのです。なかには、むしろ日本人よりもリスクが少ないと話す管理会社やオーナーも存在します。
先ほどの調査にもどり、物件を探す際に大変だったことを聞いた質問では「手続きが複雑」「費用が高い」といった日本人でも同様の不便を感じていることに加えて、「日本語が分からない/日本語以外の言語が通じない」、「外国人向けのマニュアル等がなくて理解できない」といった外国人特有の不便を感じたことも多いことがわかります。
言語の壁によって十分なコミュニケーションや理解ができないことが、不動産事業者・在留外国人双方に大きな影響を与えているようです。
市場調査を行うアスマークが集計した「在日外国人の困りごとに関するアンケート調査」は、外国人が日本に住み始めたばかりと、住み慣れてからもなお感じる不便さにはどのような違いがあるのかを調査しています。
上記表を見てみると、住み始めたばかりと住み慣れた今どちらにおいても、クレジットカードの作成に困っている人が多いという結果でした。
前回取り上げたLGBT(性的少数者)や今回の在留外国人、そして高齢者などは、住まいに十分な選択肢がなく、希望する生活が送れないケースがあり「住宅弱者」と呼ばれています。
一説には在留外国人300万人に対して、外国人が入居可能な物件は2万件しかないという話もあり、生活弱者に対する住まいや住環境の設備は、喫緊の課題です。
その一方で、空室や空き家が増加の一途を辿る日本の不動産市場においても、外国人を受け入れることは市場を活性化させる重要な要因と期待されています。
現在では、外国人に特化した家賃債務保証会社や、AIを活用したチャットツールなどを使って、外国人入居者と言語の壁を越えてコミュニケーションを円滑にするシステムなど、様々なサービスやシステムが生まれています。
また、いち早く外国人向け賃貸が新しいマーケットになると注目し、外国人スタッフを雇用して専門の部署を設立することで、外国人の入居を促進させる不動産事業者も増えています。
先ほど引用した調査結果によると、在留外国人は住まい探しに加え、決済や支払い手段などにも困っており、日常生活に支障を来している人も少なからず存在することがうかがい知れます。不動産オーナーや事業者が外国人に対して持っているネガティブなイメージを払拭し、弱い立場の人たちをサポートするという姿勢が、これからの不動産事業者に求められているのです。