インボイス制度の施行迫る!賃貸業界への影響を解説/第四十七回

不動産コラム

インボイス制度の施行迫る!賃貸業界への影響を解説/第四十七回

2023年10月1日より始まる「インボイス制度」は、正確には「適格請求書等保存方式」と呼ばれ、施行が近付くにつれてニュースなどで頻繁に取り上げられるようになっています。
今回は、このインボイス制度について、改めてどういった制度なのかを解説します。また、なぜ世間で騒がれているのか、不動産業界のなかでも特に賃貸業界にどのような影響を与えるのかについて考えてみます。

【おさらい】インボイス制度の解説

インボイス制度をざっくり説明すると、「国が、事業者の納める消費税額を把握することで、さらに徴税ができるようになる」ことを目的とした制度です。
商品やサービスが消費者に届くまでには、生産者や卸売業者、小売業者など様々な事業者を経る工程があります。生産者から卸売業者に、卸売業者から小売業者にといった商品売買の行程(取引)には、そのたびに消費税が発生しており、そのままでは消費税がどんどん上乗せされる「税の累積」が起こってしまいます。
この「税の累積」を防ぐために、受け取った消費税(売上消費税)と支払った消費税(仕入消費税)を差し引いた金額を納税する「仕入税額控除」という制度があります。
A社が、生産者Bから110円(税込)で仕入れた商品を、一般消費者Cに220円(税込)に販売した場合、A社は一般消費者Cから受け取った売上消費税20円から、生産者Bに支払った仕入消費税10円を差し引いた10円を消費税として納税します。これが「仕入税額控除」の仕組みです。

話は変わりますが、消費税は事業者が商品の価格に消費税分を上乗せして消費者から受け取り、消費者の代わりに納税する間接税と呼ばれる税金です。この消費税ですが、課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者は「免税事業者」とされ、消費税の納税を免除されています。
先ほどの取引において、生産者Bが免税事業者だった場合、A社から受け取った110円のうち、消費税にあたる10円を納税する必要はなく、利益にすることができるということです。これを「益税」と呼ぶこともあります。

インボイス制度は、この免税事業者が利益としていた消費税(益税)も課税対象とすることを目的とした制度です。
どのように課税するのかというと、課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者であっても、消費税を支払う適格事業者(インボイス発行事業者)にならなければ、取引先の仕入消費税が認められず、「仕入税額控除」ができなくなってしまうというルールを作りました。
つまり、A社が生産者Bから商品を仕入れた場合、B社が免税事業者だった場合は10円の仕入消費税は認められず、売上消費税20円をそのまま納税しなければならないということです。
生産者Bはこれまで通り消費税の負担はありませんが、取引先であるA社の税負担が増えるため、A社からは納税分の商品価格の値下げ交渉や、適格事業者との取引に切り替えられることで取引が打ち切られてしまう可能性があるのです。
それならば、生産者Bが適格事業者になればよい、という簡単な話ではありません。免税事業者ならこれまで利益となっていた消費税分の利益が、適格事業者となることで失ってしまうのは、個人事業主やフリーランスと呼ばれる人たちにとって大きな損失になってしまうからです。国内にある全事業者の800万のうち、免税事業者の数は400万とも500万ともいわれており、その影響は大きいということからもインボイス制度は世間を騒がせているのです。

免税事業者から適格事業者になった事業者には、2023年10月1日から26年9月30日までは売上消費税の2割を納税額にすればよいという軽減措置や、「簡易課税制度」を利用することで負担を軽減させる方法。また免税事業者に支払った消費税相当額に一定の割合をかけた額を仕入れ税額控除に認めるという経過措置なども設けられていますが、納得しない事業者も多いようです。

賃貸業界におけるインボイス制度の影響

このインボイス制度ですが、一般的な居住用の賃貸物件においては、賃料に消費税はかからないため、課税対象にはなりません。ですので、居住用物件のオーナーには関係のないことが多いでしょう。
しかし、オフィスやビルといった事業用不動産の賃料には消費税の負担が発生します。ビルオーナーが免税事業者だった場合は、入居テナントは支払った賃料における消費税相当額を仕入消費税として、仕入税額控除ができなくなってしまいます。

入居テナントは負担を軽減させるために賃料の減額やオーナーの適格事業者となることを求めるかもしれません。一方、オーナーも収入が減ってしまうため簡単には応じないかもしれません。そういった要望の橋渡しや交渉の調整を賃貸仲介会社や管理会社が行わなければならない可能性があります。立地や需要の低い物件などでは、リーシングが難しいことからオーナーを説得することが必要になるかもしれません。
またビル一棟を借り上げるサブリース事業においても、オーナーが免税事業者の場合は、課税事業者であるサブリース会社は仕入税額控除ができず、泣き寝入りするといった事態になってしまうかもしれません。

インボイス制度が施行されるまでにも、オーナーがどのような所存なのか、またテナントからどのような意見や要望があるのかといったことをヒアリングしつつ、綿密なコミュニケーションをとる必要があるでしょう。

まとめ

ここまで紹介してきたように、インボイス制度が賃貸業界に与える影響は、あくまでも事業用不動産に留まっており、あまり大きなインパクトではないようです。
しかし、賃貸業周辺にある建設業などはインボイス制度の影響が大きいとされています。
インボイス制度に留まらず様々な制度や法改正が、不動産業界全体にどのような影響を与えるのかを考えておくことは、業界で活躍するプレイヤーにとって非常に重要です。

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