賃貸業務を支援する不動産テック<電子契約編>/第三十四回

不動産コラム

賃貸業務を支援する不動産テック<電子契約編>/第三十四回

前回紹介した「賃貸業務を支援する不動産テック<不動産管理ソフト・コミュニケーションサービス編>」に引き続き、賃貸業務におけるテクノロジーや不動産テックサービスについて紹介します。

今回は、「電子契約」にフォーカスします。
行政手続きの簡略化やデジタル庁の創設など、国を挙げたデジタル化の機運が高まるなか、「脱ハンコ」も重要なDXの取り組みとして注目されています。賃貸業界では、電子契約はどのように活用されているのでしょうか。

・電子契約サービスの普及率
・不動産業界では電子契約は可能なのか
・将来的な電子契約サービスの取り組み

電子契約活用のメリットとは

電子契約とは、インターネット上で契約書ファイルを交換し、電子署名を行うことで契約を締結させる契約方法です。
これまでは、紙や書面によって行われていた契約業務は、締結までに時間がかかるケースや締結後の書類管理方法など様々な部分で課題が多くありました。契約が電子化されることで、業務効率化やコスト削減など様々なメリットがあります。

まず、書類をやりとりするための郵送コストは、インターネット通信で完結するため発生しません。また、やりとりされた契約書はデジタルファイルとして保存されるため、保管場所を選ばず、どこからでもすぐに内容を確認することができます。電子契約では印紙貼付の必要も無いため、建築請負契約の締結時などにおいてもコストカットが可能です。その他にも、契約データの改ざんが容易にはできなくなるといった部分でもメリットがあります。

今後、高まる電子契約の需要

日本情報経済社会推進協会が2020年に発表した「JIPDEC IT-Report 2020 Spring」では、日本国内の企業に勤めるIT担当やシステム担当者約5,000人に、企業内でのIT利活用の実態に関するアンケート結果をまとめています。

「電子契約の利用状況」という項目では、「複数の部門、取引先との間で電子契約を採用している」(18.2%)、「一部の取引先との間で電子契約を採用している」(25.1%)という回答結果で、電子契約サービスを活用している割合が全体の43.3%でした。
同回答結果が、2018年は43.1%、2019年は44.2%と、近年ほぼ横ばいになっていますが、アンケートに回答した半数近くが電子契約を活用しています。

コンサルティングを行うアイ・ティ・アールが発表した「ITR Market View:ECサイト構築/CMS/SMS送信サービス/電子契約サービス市場2020」には、今後さらに電子契約の需要は高まってくる傾向を見ることができます。

下記は、同調査における「電子契約サービス市場規模推移および予測(2017~2023年度予測)」です。

2017年には電子契約の市場規模は20億円ほどでした。しかし、年を追うごと市場は拡大し。2023年には約200億円規模にまでなる予測されています。わずか7年で市場が約10倍になると考えられています。
特に、紙での契約書行為が多いといわれている人材・金融、そして不動産業界では今後さらなる普及が見込まれています。

不動産業界では電子契約は活用可能なのか?

では、そもそも電子契約は不動産業務に活用可能なのでしょうか。
ご存知のとおり、不動産業務は宅地建物取引業法や民法をはじめ、様々な法律によって規制が引かれています。
2021年6月現在、業界を問わず電子契約が可能な契約と、電子契約が不可能な契約は下記の通りです。

【電子契約による締結が不可能な契約類型(※)】
■法律上否定さているもの
・定期借地契約(借地借家法22条)
・定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)
■書面交付が必要とされているもの
・訪問販売等において交付する書面(特定商品取引法4条等)
・宅地建物売買等の媒介契約書(宅建業法34条の2)
・宅地建物売買等における重要事項説明時に交付する書面(宅建業法35条1項)
・宅地建物売買統計約締結に交付する契約書等の書面(宅建業法37条1項)
・マンション管理業務の委託契約(マンション管理法73条)
【電子化が可能な契約書類】
・請負契約書
・売買契約書
・業務委託契約書
・賃貸借契約書
・秘密保持契約書
・代理店契約書
・保証契約書
・発注書、発注請書

※注=類型とは、民法で定められた契約の種類

不動産業務においては、法律的な壁によって契約のオンライン化が進まない部分が多くあります。

法律上否定されているもの

そもそも法律上、電子契約での契約が否定されているものがあります。
それが、下記の2つです。

・定期借地契約(借地借家法22条)
・定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)

これら2つの契約は、法務大臣に任命された公証人が作成する公正証書が必要となるため、電子契約での締結はできません。

書面交付が必要とされているもの

また、仮に電子契約が可能であっても、後に紙面での交付が必要な契約があります。

・訪問販売等において交付する書面(特定商品取引法4条等)
・宅地建物売買等の媒介契約書(宅建業法34条の2)
・宅地建物売買等における重要事項説明時に交付する書面(宅建業法35条1項)
・宅地建物売買統計約締結に交付する契約書等の書面(宅建業法37条1項)
・マンション管理業務の委託契約(マンション管理法73条)

不動産業務における媒介契約書や重説書類などは、電子契約によって締結した書類を紙面にて双方が保管しなければならないため注意が必要です。このように、電子契約サービスの利便性が高い一方で、不動産を取り巻く法律が足枷となり、契約のデジタル化が進んでいないという問題があります。

不動産業界で進む電子契約の社会実験

法律の規制によって、契約の電子化が進まない不動産業界ですが、近年では業界での活用に向けた実証実験が始まっています。

2020年9月からは賃貸取引における重要事項説明書等の書面の電子化に関する社会実験が始まりました。2021年6月全国200社以上の不動産事業者が、社会実験に参加し実現化に向けた取り組みを行っています。これは、2019年から本格的な運用が開始された賃貸におけるIT重説も、電子化への拍車をかけたかたちになりました。

また、2021年3月からは売買取引における重要事項説明書等の書面の社会実験も開始され、近い将来賃貸・売買両取引での重説書面が電子化される見込みです。

まとめ

これまで、法規制によって制限されていた不動産業界での電子契約サービスの活用ですが、社会実験などを経て、正式に活用できる日も近くなってきました。

これまでアナログな業界だと言われていた不動産業界ですが、契約業務に関してはアナログにならざるを得なかった理由たる法律が改正されることで、不動産従事者も大きな変化を余儀なくされる可能性は高いでしょう。

そうなったとき、いかにこれまでの慣習にとらわれず、新しい方法を柔軟に取り入れられるかがこれからの不動産会社や従事者に求められています。

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