不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
これまで紹介してきた、賃貸業界における不動産テック
・賃貸業務を支援する不動産テック<不動産管理ソフト・コミュニケーションサービス編>
・賃貸業務を支援する不動産テック<電子契約編>
に続いて、今回はスペースシェアに関連した技術やサービスにフォーカスします。
スペースシェアをはじめとしたシェアリングエコノミーは、「売る買う・貸す借りる」といった従来の不動産業の取引形態にとらわれない新しい取引方法を見出しています。
スペースシェアリングサービスとは、空きスペースや遊休不動産をインターネットやシステムを活用して、貸し出すことができる仕組みです。
不動産の一時的な使用や時間貸しが可能で、駐車場やオフィス、店舗や宿泊など、様々な物件が活用されています。通常、不動産を貸す・借りる際には、賃貸借契約や重要事項説明といった手続きの義務が生じますが、スペースシェアリングは「一時使用目的」に当たるため、これらの手続きが必要なく、即座に貸し借りできます(※)。
※注=レンタルオフィスなど、一部は借地借家法が適用される可能性もあります。
2021年7月に不動産テック協会が発表した「不動産テックカオスマップ 第7版」には、スペースシェアリングも含めた全12分野、446サービスが掲載されています。
その1版前である、2020年6月に発表された第6版と比較してみると、第6版では28サービスが掲載されていたスペースシェアリング分野は、第7版では36サービスと、掲載数が増加していることが分かります。不動産の新しい活用方法として、不動産事業者と一般消費者双方の注目が集まっているようです。
では、実際にスペースシェアリング市場はどれほどの市場規模なのでしょうか。
2020年12月に、シェアリングエコノミー協会と情報通信総合研究所が共同で発表した「シェアリングエコノミー市場調査 2020年版」を見てみましょう。
同調査は、不動産やスペース以外にもモノやスキル、お金といった様々なカテゴリに関するシェアリングについて集計し、発表しています。
上記グラフは様々なカテゴリーごとのシェアリングサービスの市場規模の推移を表しています。
2020年度のスペース(不動産)の市場規模は3,249億円で、2025年には8,779億~1兆11,990億円規模、2030年には2兆3,513億~4兆3,343億円規模と、10年で約10倍に拡大すると考えられています。
※グラフにある「課題解決シナリオ」とは、シェアリングエコノミーに対する認知度や個人消費者が利用する際に感じる不安、法律や規制といった諸課題が解決された際の状況を想定した場合の市場規模です。
新型コロナウイルスによるインバウンドや旅行者利用の減少、大規模イベントの減少など、マイナス要因が多いと考えられているスペースシェアリング市場ですが、少人数によるレンタルスペース活用や、テレワークに対応したレンタルオフィスやコワーキングスペースなどの需要は高く、市場成長に拍車をかけています。
今後も拡大傾向にあるスペースシェアリング市場、では具体的にどのようなスペース活用方法があるのでしょうか。
自らもスペースシェアリングサービスを提供しているモノオク(東京・渋谷)が、2021年1月に公開した、スペースシェアリングサービスを横断的に紹介する「スペースシェアリングサービス カオスマップ2021年版」を参考に、それぞれのサービスについて紹介します。
最も一般的なスペースシェアリングサービスが、レンタルスペースです。
会議室をはじめとしたビジネスを目的としたスペースシェア以外にも、近年では少人数でのパーティやコスプレイベントの撮影会など、個人の趣味やイベントでの利用も増加しています。
民泊をはじめとした宿泊を目的としたスペースシェアリングサービスです。
インバウンド人口が増加傾向にあった日本においても、民泊物件としての不動産活用に注目が集まりましたが、新型コロナウイルスの影響によって下火になってしまいました。
一方で、家具・家電付きマンスリーマンション、サービスアパートメントとしての活用も宿泊分野のスペースシェアリングとして活用されています。
ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせたワーケーションでもスペースシェアリングが活用されています。
登録している物件をサブスクリプション(定額料金)で利用することができ、転々と場所を変えて過ごすことで、仕事と休暇を両立するようなサービスには、コロナ禍において利活用が進んでいます。
使っていない部屋やスペースを、物置や保管場所として活用するサービスも、スペースシェアリングとして注目が集まっています。
テレワークや在宅勤務が推奨されている昨今、住まいで不要な荷物をトランクルームなどに預ける需要が高まっています。そういった中で、空いている物件などに荷物を預かることでスペースシェアリング活用するようなサービスが生まれています。
通常のオフィスフロアをコワーキングスペースやフレキシブルオフィスとして活用するサービスも増加傾向です。
ザイマックス総研が2021年2月に発表した「フレキシブルオフィス市場調査2021」によると、東京23区のフレキシブルオフィスは増加傾向であることが分かります。
東京都23区内にあるフレキシブルオフィスの総面積は2021年以降で19.4万坪にのぼり、23区内のオフィスストック1,300万坪の約1.5%に当たります。
開業時間が決まっている飲食店舗や、定休日のサロン店舗などを、別の飲食店や美容師などが利用するサービスもスペースシェアリングとして活用が進んでいます。
店舗やテナントを借りる際に必要だった、月額賃料の何カ月分もの敷金などの初期費用がスペースシェアリングであれば不要になるといったポイントも、利用者を増加させる要因になっています。
空いている土地の活用方法として注目されているのが、駐車場としてのスペースシェアリングです。少ない初期費用で始めることができる点も魅力で、人が集まる特定の大規模イベントがある時期だけ時間貸し駐車場として登録するといった活用方法もあるようです。
さらに狭い土地では、駐輪場として活用できるサービスもあり、違法駐車や違法駐輪を低減させるといった社会性も高い取り組みとして、全国の自治体や行政との連携が進むサービスもあります。
遊休スペースを広告枠として活用するスペースシェアリングサービスもあります。
これまで紹介してきたように、様々なサービスがスペースシェアリング業界では生まれています。
重要なのは、物件の所有者であるオーナーやそのパートナーである管理会社が、これらのサービスについて把握し、物件に対する最善の活用方法を模索できるかです。
冒頭に紹介したように、スペースシェアリングによって不動産は「売る買う・貸す借りる」にとらわれない活用方法が生まれています。
不動産業界のプレイヤーも、常に新しい情報や知識を取り入れつつ、柔軟な提案が求められ始めています。