不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
2020年から始まった、新型コロナウイルスの世界的な流行は、日本の経済活動にも大きな影響を与えました。今回は、コロナ禍2年目となる2021年の不動産賃貸業界の動向について、どのような変化や影響が現れているのかについて紹介します。
まず、2021年度の繁忙期を振り返り、不動産賃貸従事者はコロナ禍2年目の繁忙期をどのように感じていたのかを見てみましょう。不動産データや評価システムを提供しているタスが2021年4月に発表した 「賃貸住宅市場レポート 首都圏版・関西圏・中京圏・福岡県版 2021年4月」によると、2021年度の繁忙期の影響について、7割以上が影響があると答えています。
具体的な影響としては、「需要の減少」が最も多く、数回にわたって全国的に行われた緊急事態制限やまん延防止等重点措置などによる行動制限などが、引っ越しや転居ニーズに影響を与えたものであると考えられます。
リーシング・マネジメント・コンサルティングが発表した「2021年繁忙期(1~3月)における新型コロナウイルスの賃貸不動産マーケットへの影響調査」においても、アンケートに答えた4割以上の不動産会社が、2021年度の繁忙期は昨年繁忙期と比べて、問い合わせ数が減少したと答えています。
Q問合せ数の変化
未だ出口の見えないコロナ禍において、苦境を強いられている不動産会社も多い様です。
また、コロナによってエンド顧客が求める賃貸住宅に対しての条件にも変化が現れています。
先述したリーシング・マネジメント・コンサルティングの調査においても、「Q.テレワーク想定で家探しをしている お客様の案内は増え続けていますか?」という質問に対し、72.9%が「増え続けている」と、現在もなおテレワークを前提とした部屋探しを行っている顧客が増加していることが分かります。
その回答と比例するように、これまでエンド顧客が部屋探しにおいて重要視していた駅までの距離に関しては、「駅距離が遠いことはあまり気にしなくなった」という回答が31.2%にのぼり、やはり通勤などを想定しない部屋探しに需要が高まっています。
Q駅距離に対するニーズ
また、東京都では転入よりも転出する人が上回る転出超過が2020年7月から2021年2月まで続き、都心部よりも郊外に住宅を求めている人が増えています。
アットホームが発表した(2021年)「繁忙期(1月~3月)の家賃動向」によると、東京都都下や神奈川県、千葉県といった東京都心から少し外れたエリアでの70㎡を超える大型ファミリータイプの賃貸物件の家賃が、軒並み上昇していることが分かりました。
テレワークを踏まえ、都心を避けてより賃料相場が安い郊外で、広い物件にみたいと考えているエンド顧客が増加しているようです。
コロナ禍では、感染拡大防止を前提とした物件提案や接客における非対面や非接触が求められています。
そういった中で様々なツールや技術の活用が始まっており、その取り組みが業界の効率化やDX化に繋がっているケースもあるようです。
賃貸業界に向けたVRサービスを提供しているスペースリーが、2021年1月に発表した「コロナ禍における不動産事業者のDX状況および賃貸物件探し全国消費者意識調査レポート」 では、部屋探しを経験した一般顧客と不動産事業者双方に、コロナ禍における部屋探しの影響についてのアンケート結果をまとめています。
同アンケートの「新型コロナウイルスの対策として既に利用しているサービス」という質問にいて、不動産事業者の回答は下記でした。
不動産業界以外にも広く普及したZoomを始めとしたオンライン営業ツールの活用が一番高く、次いでIT重説の活用、VRでの物件紹介と続きます。
2017年から本格的に運用が始まったとはいえ、なかなか広がりを見せなかった賃貸取引におけるIT重説は、新型コロナを背景に皮肉にも活用が大きく伸びているようです。また、物件を360度カメラで撮影することで、現地に行かずとも物件の様子が分かるVR・AR技術の活用も需要があるようです。
また、エンド顧客自身も、部屋探しにおける新たな技術活用に関して、高い興味を示しているようです。2021年7月、MMD研究所はオンライン内見を経験した人を対象にした「コロナ禍での物件・部屋探しに関する調査」を発表しました。
同調査の、「今後物件を探す際にオンライン内見を利用するか」という質問では、37.4%が「オンライン内見だけで件を探すと思う」、52.3%が「実際に物件を内見するのとオンライン内見、どちらも利用すると思う」と、8割以上の一般消費者がオンライン内見ツールを好意的に捉えていることが分かります。
先述したスペースリー社のアンケートにおいても、「新型コロナウイルス問題が収束した後、営業活動や顧客の行動は、コロナ問題が発生する以前の状況に戻ると思いますか?」という質問において、元に戻ると答えたのは30.8%で、戻らないと考えているのは40.2%でした。
新しいサービスや技術に高い関心を持ち、前向き活用していく姿勢こそが、アフターコロナの不動産プレイヤーに求められているのです。