不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
これまで紹介してきた不動産テックサービス
・不動産管理ソフト・コミュニケーションサービス
・電子契約
・スペースシェアリング
に続き、今回はAR・VR技術が不動産、特に賃貸業界にどのように活用されているかご紹介致します。
ARやVRという言葉をなんとなく知っていても、それぞれの仕組みや違いを説明できる人は少ないかもしれません。コロナ禍において、非対面や非接触が求められている中で注目が集まっているAR・VR技術について改めて理解し、それぞれがどのような場面で活用できるのか理解しましょう。
「AR」とは、「Augmented Reality」の略で「拡張現実」と翻訳されます。
ARは、スマートフォンなどの画面に映る現実の世界に、CGなどで作られたデジタルコンテンツを表示して文字通り現実世界を「拡張」させる技術です。
エンターテインメント性の高いゲームやアニメのキャラクター以外にも、様々な情報を視覚的に分かりやすく表示させることで、ビジネスにも活用されています。
たとえば、工場内作業やピッキングを行うスタッフにARグラス(スマートグラス)を装着することで、ダンボール箱の中身のデータが即座に表示され、開梱することなく仕分けが可能になり、生産性が向上したケースなどが挙げられます。
「VR」とは、「Virtual Reality」の略で「仮想現実」と翻訳されます。
VRは、ヘッドマウントディスプレイや専用のゴーグルを着用し、そこに映し出される360°の映像を見ることで、あたかもその空間にいるような感覚を得ることができます。現実の映像に仮想を重ね合わせるARとは異なり、全く異なった世界や映像を映し出すことが特徴です。
高い臨場感や没入感を得られることから、ゲームやアミューズメント業界での活用が進んでいる技術ですが、時間や場所の成約がないため、研修やオペレーションなどへの活用や旅行産業などでも様々なサービスがリリースされています。
360°カメラで撮影した写真画像などを専用ゴーグルで見ることで、立体感のある空間にいるような体験ができるほか、近年では仮想の世界を単に見るだけでなく、自由に移動できたり、ものを動かしたりできるサービスも生まれています。
総務省が発表している令和3年版「情報通信白書」によると、AR・VRの市場は、世界的に今後も拡大傾向にあると考えられています。
5Gを始めとした大容量の情報を取り扱うことができる環境が整うことで、AR・VRの利用方法に広がりが生まれているため、これからも様々な分野・産業で活用が進むと見込まれているようです。
シンクタンクのインプレス総合研究所が2018年に発表した『VRビジネス調査報告書2018[業務活用が進むVR/AR/MRの動向と将来展望]』では、一般の消費者がどのような場所でVRサービスを体験したことがあるかについて聞いています。
■VRの体験場所
同調査によると、不動産会社でVRサービスを体験したことがあると答えたのはわずか1%でした。
■ VRの体験内容
また、どういった目的で利用したかという問いでも、「住宅やオフィス等の見学」といった住生活に関わる活用方法は2%と、まだまだ不動産業界では広がっていない現状があるようです。
しかし、先述のようにAR・VRは今後拡大傾向にあることから、不動産業界においてもさらなる活用が期待されています。では、現状AR・VRサービスはどのように活用されているのでしょうか。特に、賃貸業界での活用シーンについて考えてみましょう。
内見時、多くの顧客は第一印象でその物件が「ありか、なしか」を判断しているといわれています。
例えば、物件図面では良いと感じた物件であっても、現地に行った際に「玄関が暗い」「部屋の雰囲気が合わない」といった第一印象を持ってしまうと、その後その印象が覆ることはほとんどありません。
つまり、その物件への内見は顧客にとっても不動産会社にとっても無駄な内見業務となってしまいます。そこで顧客が来店した際に行う、希望の条件をヒアリングといった一連の流れの中で、候補となる物件の映像をVRサービスによって体験してもらうことで、内見に向かう物件をあらかじめスクリーニング(ふるいにかける)といった活用が始まっています。
これによって実際の内見時のミスマッチを極力なくすことで、内見業務が効率化されます。
就学や就職にともなった遠方からの部屋探しにおいては、スケジュール調整が難しく、内見ができないといったケースもあります。そういった遠方の顧客に対して、VR映像の物件データを送付することで、物件の様子が分かるサービスが提供されています。
また、VRに対応したデータをHPに掲載することで、HPに訪れた顧客自らがVRでの内見を行うことで反響から獲得に繋がったケースや、一度提案した顧客へのメールに物件のVRデータを添付する追客ツールとしても活用されています。
AR技術によって、スマホをかざしながら内見をすることで、その部屋にどのような家具を配置できるかをシミュレーションできるサービスがあります。
家具メーカーと提携したサービスなどでは、ARによって配置した家具が気に入ればそのまま購入することができるものなどもあり、より新居での生活を具体的に感じ、入居を後押しすることが可能です。
先述したように、5G環境の構築や新たなデジタルデバイスの登場などにより、AR・VR技術を取り巻く環境は、今後もさらに広がりを見せると考えられています。
現在、AR・VRサービスを導入するにあたり、検討企業の大きなネックとなっているのが「物件のVR・ARデータ」をどのように用意するかです。
賃貸物件をVRで内見してもらうためには、物件の各所を360°カメラで撮影しなければなりません。その撮影にかかる人件コストなどがどのように解消されるのか、今後もその成り行きに注目が集まっています。