不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
これまで紹介してきた不動産業界に向けたテクノロジー・DXサービス
・不動産管理ソフト・コミュニケーションサービス
・電子契約
・スペースシェアリング
・AR・VR
・IoT
に続き、今回はリフォーム・リノベーションにおけるテクノロジー活用について考えます。
原状回復工事やバリューアップなど、リフォーム・リノベーションは賃貸業とも密接な関わりがあります。具体的にどのようなサービスや技術が業界に変化を与えているのでしょうか。
不動産業界と同様にリフォーム・リノベーション業界でも、テクノロジーの活用が喫緊の課題となっています。リフォーム・リノベーションは建設業に当たるため、同業界の各データをもとに、テクノロジー活用が求められる理由について考えてみましょう。
建設業を取り巻く課題、その最たるものが深刻な人手不足です。
国交省が発表している資料によると、建設業界の就業者数は、1997年の685万人をピークに下降し続けており、2018年には503万人と、約30年で26%減少しています。
このような中では、生産性を上げて効率のよい働き方が求められており、ITやテクノロジーの活用に注目が集まっています。
業界の人手不足に加え、業界の就労者の高齢化も大きな問題です。
国交省の発表によると、平成27年(2015年)時点で、建設業の就労者における55歳以上の割合が約34%、29歳以下が約11%と高齢化が進行しており、次の世代への技術継承などに課題があるとしています。
リフォーム産業はクレーム産業と呼ばれるように、一般消費者とのトラブルが多発する業界です。
住宅リフォーム・紛争処理支援センターが公開している「住宅相談統計年報2021」によると、2020年のリフォームに関する新規相談件数は9,197件と、2019年の1万1,948件よりも減少しましたが、未だに1万件近く相談があることがわかります。
また、国民生活センターの「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」によると、 PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された相談件数は、数年連続で1万2,000件を前後するかたちとなっており、賃貸業界に近いリフォームの分野でも未だにクレーム対応などが煩雑に起こっているようです。
PIO-NETに登録された相談件数の推移
年度 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 |
相談件数 | 12,500 | 11,799 | 12,061 | 8,759↓ (前年同期 8,071) |
このように、一般消費者との認識の齟齬などをなくし、クレームを最小限にする方法としても、テクノロジーの活用に期待が高まっています。
注目が集まっているリフォーム・リノベーション業界におけるテクノロジー活用ですが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
リフォーム工事の進捗や修繕箇所の状況がリアルタイムでわかる施工管理ツールは、徐々に業界内での活用が広まっています。
リフォームや建設の現場では、現地調査をした後に一度事務所に戻り、デジカメやスマホで撮影した写真をPCに取り込み、現場で記録したメモを打ち込んで報告書にして、メールで関係者に送信する、といった非効率な作業が頻発していました。
アプリを利用することで、スマホやタブレットで撮影した写真が即時に反映され、現場で報告書が完成します。
また、施主とのコミュニケーションをツール内で完結させることで、リフォーム業界ではお馴染みの言った言わないの水掛け論やコミュニケーションエラー、工事状況をリアルタイムで把握することでクレームの削減にも貢献しています。
先述したように、クレームやトラブルが多く賃貸業界内と縁が深い原状回復工事においても、テクノロジーによる問題解決が試みられています。
テクノロジーを活用した不動産事業を展開するLeTech(大阪市)は、2022年2月に原状回復工事DX実現に向けたAI機能の開発を開始したと発表しました。
同社が発表したプレスリリースによると、これまで専門知識が必要だった原状回復工事時の負担割合などを算出するAI(「業界ガイドライン準拠のAI機能」)を開発し、賃借人負担率やその判断根拠の透明化、適正化をめざす、というものです。 将来的な事業展望として、開発したAIをクラウドサービスとして提供するほか、既存のシステムなどとの連携やAPIでの連携なども積極的に行っていくようです。
不動産業界と同様に、リフォームや建設業界でもテクノロジー活用やDXの波が押し寄せています。また、昨今のコロナ禍なども業界に変化を与える大きな要因となっています。
先にも述べたように、リフォーム・リノベーションの現場や賃借人の退去時における原状回復工事といった場面では、未だにクレームが頻発しています。
トラブルやクレームを防止し生産性を上げる、そのためにテクノロジーの活用やDX化が求められているのです。