不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
これまで紹介してきた不動産業界に向けたテクノロジー・DXサービスに続き、今回は不動産業界、賃貸業界におけるフィンテック(Fin-Tech)サービスにフォーカスします。
・不動産管理ソフト・コミュニケーションサービス
・電子契約
・スペースシェアリング
・AR・VR
・IoT
・リフォーム・リノベーション
不動産テックやリーガルテックといった様々な業界・業種におけるテクノロジー化の先駆けとして金融市場の拡大に貢献したフィンテックは、不動産業界にどのような影響を与えるのでしょうか。
様々な業界・業種とテクノロジーを掛け合わせた「○○テック」の潮流の中でも、ひときわ大きな成功事例として注目されているフィンテック。
では、改めてフィンテックとはどういったものなのか、フィンテックによって金融市場が拡大した要因や不動産業界に与える影響について考えてみましょう。
金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語として生まれたフィンテックですが、その技術やサービス、活用方法は多岐に渡ります。
下記図は、投資や仮想通貨、フィンテックに関する情報サイト「MAStand」を運営するレタドールが発表した「FinTech企業カオスマップ2019年」です。
決済系サービスや仮想通貨、ローンといった個人に向けたサービスに加え、会計・財務、セキュリティ、クラウドファンディングといった主に法人が利用するサービスなど、金融と銘打ちながらも多方面に対して、ウェブやAI、ビッグデータなどのテクノロジーを使った技術が生まれています。
スマホアプリ上での送金や預貯金の確認、ウェブでの金融投資など、今では身近になっているサービスにもフィンテックの技術が活用されています。
フィンテック市場は、今後益々拡大傾向にあります。
矢野経済研究所の発表によると、2018年の時点で、2021年度の国内FinTech市場規模は1兆8,590億円にまで拡大すると予測しています。
2017年度の1兆184億円から、僅か5年で80%以上成長すると予測されています。
一方で、不動産テック市場はどうでしょうか。
こちらも同じく矢野経済研究所が発表した「不動産テック市場に関する調査を実施(2021年)」から市場データを見てみましょう。
不動産テック市場も拡大傾向にあり、2020年度の不動産テック市場6,110億円でした。
同年度のフィンテック市場(1兆7,886億円)の3分の1程度で、2025年度にようやく1兆円を超え、1兆2,461億円になる見込みです。
どちらも成長期にある市場ですが、成長速度の違いは何なのでしょうか。
その大きな理由のひとつに、サービスを誰に対して提供しているのか、という違いが考えられます。
フィンテックとして市場拡大に貢献し、近年普及が進んでいる○○ペイを始めとした決済・送金サービスや預貯金アプリなどは、いずれも一般消費者(toC)に対して提供されているサービスです。
これまで現金でなければならなかった決済作業や、銀行にわざわざ足を運ばなければできなかった振込や入出金などをテクノロジーによって簡便にし、お金の流動性を高めることや個人の利便性向上が図られています。
こういった個人の消費行動は不可逆で、一度便利になってしまったものを元の不便な状況に戻すことはできません。そういった高まる消費者のニーズに突き動かされるかたちで、金融機関やフィンテック企業が様々な便利なサービスを開発・提供し、金融業界に変革を与えました。
一方で、不動産テックサービスの多くは、不動産会社や不動産従事者に向けて(toB)サービスが提供されています。 下記は、2022年8月に不動産テック協会が発表した「不動産テックカオスマップ第8版」です。
不動産テックカオスマップには15のサービスカテゴリーがありますが、そのほとんどが法人(toB)に向けられたサービスであることがわかります。
不動産会社の業務効率化や集客強化を始め、資金調達や査定サービスなども不動産会社が利用することを前提としたサービスです。
マッチングといったカテゴリーでは、エンドユーザーと法人をマッチングさせることで、一般消費者にも利便性を提供していますが、費用負担やコストを支払う顧客となるのは不動産会社であるケースが多く、やはり法人向けの様相です。
これは、一般消費者を便利にすることで、法人もそのニーズに応えなくてはならなくなり、業界全体が変わった金融業界とは正反対のアプローチとなっています。
不動産情報の囲い込みや情報の非対称性といった、一般消費者にはまだまだ不透明な要素が多い不動産業界。toCに選ばれるサービスが生まれることで、さらなる業界発展する可能性を秘めています。
そのヒントは、不動産業界に根差したフィンテックサービスにあるかもしれません。
では、不動産業界に根差したフィンテックにはどのようなものがあるのでしょうか。賃貸業界に特化したフィンテックサービスについても紹介します。
住宅を購入する際や不動産投資を始める場合、ほとんどの人は金融機関からローンを借り入れます。その際、一般的には不動産会社が提携している金融機関を指定します。
しかし、自社が提携している金融機関ではローンが通らない顧客が出てくるかもしれません。また、他の金融機関であればさらに良い条件や低い金利で借り入れられる可能性もあります。
不動産会社が、金融機関・銀行の融資条件や金利情報を網羅することは難しいでしょう。また、金融機関ごとに必要な書類や情報を用意して対応する余裕が不動産会社にはありません。
そういったより良い条件のローンを利用したい消費者と不動産会社を結ぶのが、住宅ローンや投資ローンのフィンテックサービスです。 全国の銀行や金融機関の金利や融資条件の最新情報を網羅し、仮審査や融資額などを提示することが可能です。また、不動産会社に代わり融資業務を代行するサービスや消費者自らが借り入れや借り換えの手続きができるサービスなどもあります。
賃貸入居における費用は、賃料の5カ月分ともいわれていて、引っ越し検討者や部屋探しをしている人にとって大きな出費となっています。
そういった初期費用を割賦で支払うことができるサービスが生まれています。支払い回数が少なければ手数料も不要なケースもあり、クレジットカードなどを利用するよりもお得です。
同時に仲介会社への送客を行っているサービスもあり、消費者には初期費用の割賦払いを提供し、仲介会社にとっては新しい集客サービスとして利用されています。
先述した通り、フィンテックの市場を大きく拡大させた原動力は、一般消費者への利便性を追求することで、多くの人々に支持されたことでした。
一般消費者に選ばれ、より価値のあるサービスを提供するという姿勢は、不動産テックサービスだけでなく、不動産従事者も常に意識しなければなりません。
アナログだと言われていた不動産業界も徐々にですが変化の兆しが生まれています。一度DX化やテクノロジー化が進んだ業界が、元のアナログに戻ることはありません。
不動産業界のプレイヤーも業界の変化に合わせて、常に変化に適応しなければならないのです。