不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
2024年4月より、これまで任意とされていた不動産の相続登記の義務化が始まりました。
これにより、相続登記をきっかけとした不動産売買などが活発になるなど、不動産業界に大きな影響があると考えられています。
相続登記の義務化の制度や罰則、義務化された背景などについて解説します。
相続登記とは、亡くなった人(被相続人)が所有していた不動産を、相続人が引き継ぐ際に名義変更を行う手続きを指します。
これまでは任意とされていた相続登記ですが、2024年4月1日からは、相続により不動産を取得した相続人は、その不動産の所有権移転登記の申請が義務づけられました(「相続登記の義務化」)。
相続登記の申請期限は、相続人が不動産の所有権の取得を知った日から3年とされています。申請対象者は、相続や遺贈によって不動産を取得したすべての相続人です。共同相続の場合は、各相続人がそれぞれ申請する必要があります。
複数の相続人が存在し、相続人の間で遺産分割がまとまらないケースなどでは、法定期限となる3年以内に相続がまとまらないこともあります。その際には、「相続人申告登記」制度を利用します。被相続人が亡くなった事実や、自らが相続人である旨を法務局に申告すると、相続登記申請義務を履行したものとみなされます。
※参考:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A 相続人申告登記について」
2024年4月までは、相続登記の義務がないため、相続登記を行わなくとも罰則等はありませんでした。
しかし、2024年4月以降は、正当な理由がないにもかかわらず、相続登記の期限内に登記申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科せられます。 相続登記を行わないことに正当な理由があれば罰則はありません。具体的な正当な理由とは下記のようなものがあります。
参考:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A 過料について」
また、注意が必要なのが今回の相続登記の義務化によって、2024年4月までに発生した相続に対しても、義務化が遡及(さかのぼって)して適用されるという点です。
施行日(2024年4月1日)または不動産を相続したことを知ったときのどちらか遅い日から3年以内に申請しなければなりません。
法務省は、相続登記の義務化の背景には、全国に増加する「所有者不明土地」問題の解決を目的として施行したと発表しています。高齢化や核家族化により、相続登記がされずに放置される土地が増加し、公共事業の障害となるなどの社会問題が発生していました。
所有者不明の土地とは、登記簿等の公的な記録に所有者の現住所が記載されておらず、所有者に連絡がつかない土地、そもそも所有者が誰なのか分からない土地を指します。
全国の土地の約20%(約410万ha)が所有者不明となっており、総面積は九州の面積に匹敵するといわれています。所有者不明土地が増加することで、以下のような問題が生じています。
相続登記を義務化することで、所有者情報が最新の状態に保たれることで、所有者不明の土地の発生を防ぐことができます。
大きな不動産を相続する場合には、相続税が発生します。これまでは相続税の課税から免れるために相続登記を行わなかったケースもありましたが、義務化されることで税収を増やすという国の思惑もあるでしょう。
また、相続税を捻出するため相続不動産の売却なども活発になることも予測されており、不動産事業者の相続領域への事業進出が相次いでいます。
今後は、相続登記の義務化により、相続を機に不動産を売却したり、有効活用したりするケースが増加すると予想されます。不動産事業者には、相続の知識に加え、相続人のニーズに合わせた的確なアドバイスと、円滑な不動産取引のサポートが求められるでしょう。
また、所有者不明土地の活用や管理についても、不動産事業者の専門的な知見が必要とされます。所有者の探索や、土地の管理・活用プランの策定などにどのように取り組むか、これまでの知見に加えて、最新のテクノロジー活用なども求められています。