不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
不動産取引は、多額の資金が動く重要な経済活動の一つです。不動産会社は、顧客の大切な資産を扱う立場にあるため、高い倫理観とコンプライアンス意識が求められます。しかし、近年、不動産業界では、反社会的勢力との関係が問題視される事件や報道が相次いでいます。反社会的勢力との取引は、企業の信用を失墜させるだけでなく、行政処分や刑事罰につながる可能性もあります。不動産会社は、コンプライアンスを徹底し、反社会的勢力との関係を断つことが重要です。
不動産会社は、宅地建物取引業法をはじめとする様々な法律や規制を遵守し、公正かつ誠実な取引を行う必要があります。
不動産業界におけるコンプライアンスは、単に法令を遵守するだけでなく、社会的規範や倫理観に基づいた行動を取ることも求められます。不動産会社は、顧客や取引先、地域社会からの信頼を得るために、誠実かつ公正な企業活動を行う必要があります。
近年でも、不動産会社と反社会的勢力が関連した事件や犯罪が頻発しています。
2018年、特殊詐欺グループに犯行拠点となるアジトを提供するために、不動産仲介業者をだまして東京都文京区のマンションの部屋を借りたとして、不動産会社の代表が逮捕されました。逮捕された不動産会社の代表は、詐欺グループにアジトを提供する「ハコ屋」のグループのリーダー格で、個人の住居用などと偽って借りたマンションの部屋を、別の詐欺グループにアジトとして提供する犯行を繰り返していたそうです。このような、詐欺のグループに物件を提供する事件は近年多発しており、直接的な関与でなくとも間接的に関わってしまうケースもあるため注意が必要です。
2023年には大手ハウスメーカーにおいて、暴力団組長への利益供与問題が発覚。同社の代表が会社法違反容疑で警視庁の家宅捜索を受け、辞任に追い込まれる事件がありました。上場企業といえども、コンプライアンスチェックを怠れば、大きな損失や失墜に繫がってしまう可能性があるのです。
企業は反社会的勢力との関係を断つことが強く求められています。国や地方自治体、そして業界団体からも、取引先や顧客に対する反社チェックの実施が要請されています。
国としても、企業が反社会的勢力から被害を受けないための指針を示しています。2007年に法務省が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」がその一つです。この指針には法的拘束力はありませんが、企業に対して次のような取り組みを求めています。
企業は、健全な運営と社会の安全のために、反社会的勢力との関係を断つための具体的な措置を講じることが求められています。企業の健全な運営と社会の安全のために、反社チェックは欠かせない取り組みといえます。
これにより不動産会社の事業者も、契約者に反社排除の教示や助言を行うことが義務づけられました。
また、上記した政府の方針発表を受けて、2011年に全国宅地建物取引業協会連合会、全日本不動産協会、不動産流通経営協会、日本住宅建設産業協会の4団体と、不動産協会がそれぞれが「反社会的勢力排除のためのモデル条項」を策定しました。
売買契約においてはいずれの条項も
といった部分が要点となっています。
賃貸契約においても
いずれも、借主の反社会的勢力との関わりを排除し、賃貸物件の不適切な使用を禁止し、それらに違反した場合の契約解除を定めている点で共通しています。
反社チェックとは、取引先が反社会的勢力に該当しないかどうかを調査・確認することです。
反社会的勢力とは、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団などを指します。反社チェックでは、取引先の代表者や実質的支配者、主要株主などが反社会的勢力に該当しないかどうかを確認します。
先述の通り、不動産事業者は、取引に関わりのある対象が反社会的勢力でないことを確認することが義務付けられています。また、犯罪収益移転防止法(マネーロンダリング防止法)により、不動産取引における本人確認や取引記録の保存などが義務付けられています。さらに、暴力団対策法により、暴力団との取引が禁止されています。不動産会社は、これらの法律を遵守し、適切な反社チェックを行う必要があるのです。
具体的な反社チェックの方法について紹介します。
反社チェックを行う際には、取引先の情報を収集することが重要です。インターネットや新聞の記事検索、公的機関が提供するデータベースを活用することで、効率的に情報を収集することができます。
公的な情報だけでは十分な情報が得られない場合や、情報検索によって疑義があった場合には、調査会社・興信所といった民間の調査会社を活用するのも一つの方法です。現地調査や聞き取り調査なども行ってくれるため、公的な検索だけでは得られない情報を入手することができます。ただし、民間の調査会社を活用する際には、調査の範囲や方法、費用などを事前に確認しておく必要があります。
反社チェック業務を自動化するサービスを利用することも一つの方法です。
当社が提供している「賃貸管理システム(「i-SP」「SP-Ⅱ」)」「賃貸仲介システム(SP-R)」「売買仲介システム(SP-D)」では、新規取引する申込者や家主、売主、買主、取引業者の情報を登録する際、オープンアソシエイツ社の提供する「RoboRoboコンプライアンスチェック」とリアルタイムで連携し、法令遵守や企業倫理、社会規範に反していないかを自動的にチェックすることができます(※オプションサービス。詳細はこちら)。
これにより、面倒なチェック作業が不要となり、法務・総務担当者様の業務効率化にも役立っています。
企業のコンプライアンス風土の醸成は、仕組みやサービスの活用だけでなく、会社の組織体制や教育制度などに重要な関わりがあります。
不動産会社は、コンプライアンス違反を防ぐために、適切なコンプライアンス体制を構築する必要があります。具体的には、コンプライアンス方針の策定、担当部署の設置、コンプライアンスマニュアルの整備、内部通報制度の導入などが挙げられます。また、コンプライアンス研修を定期的に実施し、従業員のコンプライアンス意識を高めることも重要です。さらに、反社チェックを含む取引先管理体制を構築し、適切な取引先選定を行うことが求められます。
不動産会社のコンプライアンス違反を防ぐためには、従業員一人一人のコンプライアンス意識を高めることが重要です。そのためには、定期的なコンプライアンス研修の実施が欠かせません。研修では、法令や社内規程の内容だけでなく、コンプライアンス違反の事例やその影響などを具体的に説明し、従業員の理解を深めることが大切です。また、日常業務の中で、コンプライアンスを意識した行動を促すことも重要です。
不動産取引は、国民生活に深く関わる重要な経済活動です。不動産会社は、コンプライアンスを徹底し、反社会的勢力との関係を断たなくてはなりません。また、不動産業界全体で、コンプライアンスの重要性を共有し、健全な取引環境を構築していくことも求められます。
そうすることで、不動産業界は、持続的な発展を遂げ、社会に貢献していくことができるのはないでしょうか。