不動産業界におけるコンプライアンスチェックの重要性を考える/第五十一回
不動産IT技術研究所
2022年9月、首都圏不動産公正取引協議会(不動産公取協)は、「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」と「表示規約施行規則」を改正しました。
不動産の広告表記の変更は実に10年ぶりです。では、主な変更点はどのようなものなのかを踏まえつつ、具体的な事例やケースを交えて、理解しましょう。
不動産の表示規約には、”不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保すること”が目的として定められています。それにならい、今回の改正も、不動産表示や広告による誤認を防ぐために、表記を明確化することを目的に規制が強化されています。しかしその一方で、緩和されたものもあります。
それぞれについて紹介します。
交通の利便性や核施設までの距離、所要時間についての変更は、今回の改正の大きなポイントで、様々なメディアや報道でも取り上げられました。では具体的にどのような改正があったのでしょうか。
2区画以上ある賃貸や分譲物件において、これまではもっとも近い区画や住戸からの徒歩所要時間を測っていましたが、もっとも遠い区画・住戸の所要時間も併記することが必要になりました。
「○○駅まで徒歩2分~5分」といった表記が求められます。
主要なターミナル駅までの乗車時間などを表記する際、従前は「通院時の所要時間が平常時の所要時間を著しく超えるときは通勤時の所要時間を明示すること」と規定されていました。
改正によって、「朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明示し、平常時の所要時間をその旨を明示して併記できる」と変更され、ラッシュ時の所要時間を必須とし、平常時の所要時間も加えることができるといったものになりました。ただし、ラッシュ時が具体的に何曜日の何時を指しているのかといった決まりがないため、曖昧になってしまうという懸念もあります。
前項に加えて、乗り換えが発生する場合、これまでは乗り換えを要することの明示が必要でしたが、改正によって乗り換えを要することの明記と、所要時間は乗り換えで概ね要する時間を含めなければならなくなりました。
駅や施設までの距離・時間を測る際、アパートやマンションといった物件の起点は、建物の出入り口を起点とすることが明文化されました。
交通利便の表記において、これまでは「最寄り駅等から物件まで」の徒歩所要時間を明示する規定でしたが、「物件から最寄り駅等まで」の徒歩所要時間を明示することとなりました。
崖の上や下の土地を販売する際、崖が擁壁によって覆われていない場合、これまではその旨を明示することが義務づけられていました。改正により、その土地に建物を建築する際、その土地に制限が必要となる場合には、その旨も併記することが必要になりました。
不動産公正競争規約のインターネット広告に表示する必要事項(不動産公正競争規約別表4~別表9)に、「引渡し可能年月(賃貸物件においては、入居可能時期)」と「取引条件の有効期限」(分譲物件のみ)が追加されました。
また、不動産公正競争規約に別表5「一棟売りマンション・アパート」が新設され、別表5に関しては
・一棟売りマンション・アパートである旨
・建物内の住戸数
・各住戸の専有面積(最小面積及び最大面積)
・建物の主たる部分の構造及び階数
の項目が加えられました。
物件名称の使用基準について規制が緩和されました。
たとえば、物件名に海や海岸、湖沼、河川などを付ける場合、対象から直線300メートル以内であれば使用できることとなりました。
また、街道の名称は、これまでは物件が対象道路に面していることが条件でしたが、直線で50メートル以内であれば使用できるようになりました。
これまで、建物が未完成の場合の写真を使用するには、取引する建物と「規模や形質及び外観が同一の他の建物の外観写真」に限り表示は認められていました。
改正によって、同位置でなくても
・取引する建物を施工する者が過去に施工した建物であること
・構造、階数、仕様が同一であること
・規模、形状、色等が類似している
これらの条件に該当している場合は、外観写真を使用できるようになりました。
ただし、当該写真を大きく掲載する等取引する建物であると誤認されるおそれのある表示は割けなければなりません。また、「施工例 ※取引する建物とは、外壁、屋根開口部等の形状が異なります。」といった注記が必要です。
学校などの公共施設やスーパーなどの商業施設を表示する場合、これまでは「物件からの道路距離を記載すること」となっていましたが、徒歩所要時間の表示も認められました。距離のみの表示、所要時間のみの表示、所要時間と距離の併記のいずれでも問題なくなりました。
二重価格の表示に関しては、下記5つの条件を満たしている場合は可能であるとし、従来の条件よりも僅かに緩和されました。
1. 過去の販売価格の公表日及び値下げした日を明示すること。
2. 比較対照価格に用いる過去の販売価格は、値下げの直前の価格であって、値下げ前2か月以上にわたり実際に販売のために公表していた価格であること。
3. 値下げの日から6か月以内に表示するものであること。(現行と変更なし)
4. 過去の販売価格の公表日から二重価格表示を実施する日まで物件の価値に同一性が認められるものであること。
5. 土地(現況有姿分譲地を除く。)又は建物(共有制リゾートクラブ会員権を除く。)について行う表示であること。
予告広告やシリーズ広告が可能な物件種別に「一棟リノベーションマンション」が加わり、不動産公正競争規約別表6が追加されました。
予告広告後の本広告を実施すべき媒体について、インターネット広告のみでも可能とする規定が追加されました。その場合は、予告広告にインターネットサイト名やアドレス、掲載予定時期などを明記しなければなりません。
不動産公取協が発行する「公取協通信」には、改正された公取規約に基づいた様々な質問や事例を紹介しています。その内容の一部を意訳して紹介します。
出入り口が複数あるマンションの場合は、どの入り口を起点として所要時間を計測すればよいのでしょうか。
不動産公取協の回答は、建物が一等の場合は、その等の一番地9階出入り口からの表記のみで構わない、としています。ただし、取引対象となるマンションの棟が複数ある場合については、最も近い棟からの所要時間に加えて、最も遠い棟からの所要時間の記載も必要であるとしています。(公取協通信第336号(2023年1月)より)
昨今では、不動産会社や営業担当者自らが、募集中物件の情報や物件写真の投稿などを行い、集客に役立てているケースがあります。たとえば、担当者一個人が利用しているSNSの投稿においても、規約の規制を守らなければならないのでしょうか。
不動産公取協は、SNSを利用した物件の販売や賃借人の募集を目的とした投稿に関しては、たとえ個人用のアカウントであっても、表示規約における「表示」に該当しており、ポータルサイトやホームページと同様に、規制対象になると回答しています。そのため、必要な表示事項の記載が必要ですが、物件概要が表示されている他サイトへのリンクを設定することでも構わないとしています。